サルコペニア診療ガイドライン
2017年版のCQとステートメント
第 1 章 サルコペニアの定義・診断
CQ1 サルコペニアの定義は?
【ステートメント】 サルコペニアは高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能(歩行速 度など)の低下 により定義される。
CQ2 サルコペニア肥満の定義と意義は?
【ステートメント】 サルコペニア肥満はサルコペニアと肥満もしくは体脂肪の増加を併せ持つ状態であり、それぞれ四肢骨格筋量の低下(身長の 2 乗または体重で補正)と BMI または体脂肪率またはウエスト 周囲長の増加で操作的に定義される。しかしながら、評価方法やカットオフ値は定まっていない。
CQ3 サルコペニア,サルコペニア肥満のスクリーニング方法・診断方法とは?
【ステートメント】
- サルコペニアの診断方法は、EWGSOP の基準を基本として全7種類の診断基準が確認された。
- そのなかでも、わが国では日常診療においては AWGS の診断基準を用いることを推奨する。
- サルコペニア肥満に関しては統一された診断コンセンサスはない。
- スクリーニング方法は下腿周囲長に注目した「指輪っかテスト」によるスクリーニング が有用である。
第2章 サルコペニアの疫学
A 一般集団における疫学
CQ1 サルコペニアの有病率は?
【ステートメント】 EWGSOP と IWGS よるサルコペニア判定の定義では、地域在住の 65 歳以上の高 齢者の 1〜29%がサルコペニアに該当し、施設入所高齢者では、14〜33%がサルコペニアに該当する。 大規模研究に限ってみると 6〜12%がサルコペニア有病率であった。
CQ2 サルコペニアの要因,危険因子は?
【ステートメント】 サルコペニアは、加齢が最も重要な要因であるが、活動不足、疾患(代謝疾患、消耗 性疾患など)、栄養不良が危険因子である。
CQ3 サルコペニアの予後,転帰は?
【ステートメント】
- サルコペニアでは転倒、骨折、フレイルとなるリスクが高い。
- サルコペニア肥満では脂質異常症となるリスクが高く、また心血管疾患による死亡、総死亡のリスクが高い。
- サルコペニアを合併すると癌患者の生存率が低下する。
- サルコペニアを合併すると手術の死亡リスクが高くなる。
B 各種疾患における疫学
CQ1 生活習慣病(非消耗性疾患)におけるサルコペニアの有病率は?
【ステートメント】
- 2型糖尿病ではサルコペニアの有病率が高い。
- メタボリックシンドロームでもサルコペニア・サルコペニア肥満の有病率が高い。
CQ2 消耗性疾患におけるサルコペニアの有病率は?
【ステートメント】
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者におけるサルコペニアの有病率 は、それぞれ 14.5%、5〜24.2%とされる。
- 悪性腫瘍患者では、CT 横断面(L3)による筋肉量評価を行われることが多く、若年でも筋肉量の減少(プレサルコペニア)を来す割合は多い(11〜74%)。
- 慢性腎臓病におけるサルコペニアの有病率は、保存期(G3〜G5)で 5.9〜14%、透析期で 12.7〜33.7%とされ、プレサルコペニアは病期の進行に伴いその頻度が上昇する。
CQ3 運動器疾患におけるサルコペニアの有病率は?
【ステートメント】
- 骨粗鬆症とサルコペニアは併存しやすく、両者の合併は歩行障害やバランス喪失と関連する。
- サルコペニアと低骨密度は関係しており、大腿骨近位部骨折者、脊椎椎体骨折者におけるサルコペニア有病率は高率である。
- 関節リウマチ、変形性関節症などの運動器障害はサルコペニアと深く関連している。
CQ4 神経変性疾患ならびに認知機能障害におけるサルコペニアの有病率は?
【ステートメント】
- 神経変性疾患におけるサルコペニアの有病率は研究報告が少なく、明らかではない。
- 認知機能の低下が重度になるほど、サルコペニアの有病率が増加したが、平均年齢も高くなるため、その解釈には注意が必要である。
CQ5 慢性疼痛,低栄養,フレイル,廃用症候群,ICUAWにおけるサルコペニアの有病率は?
【ステートメント】
- 低栄養ではサルコペニアが増加する。
- フレイルではサルコペニアを併存することが多い。
- 脊髄損傷、不活動、活動性低下ではサルコペニアの合併が増加する。
- 廃用症候群ではサルコペニアを合併することが多い。
- 外傷や手術等の侵襲は二次性のサルコペニアの原因となる。
第3章 サルコペニアの予防
CQ1 栄養・食事がサルコペニア発症を予防・抑制できるか?
適切な栄養摂取、特に1日に(適正体重)1kg 当り1.0g以上のたんぱく質摂取はサルコペニアの発症予防に有効である可能性があり、推奨する。(エビデンスレ ベル:低、推奨レベル:強)
CQ2 運動がサルコペニア発症を予防・抑制できるか?
【ステートメント】 運動習慣ならびに豊富な身体活動量はサルコペニアの発症を予防する可能性があり、運動ならびに活動的な生活を推奨する。(エビデンスレベル:低、推奨レベル:強)
CQ3 生活習慣病,慢性疾患に対する治療がサルコペニア発症を予防・抑制できるか?
【ステートメント】 高血圧、糖尿病、脂質異常症に対する治療薬、アンドロゲン薬、また糖尿病、慢性腎 臓病(CKD)、慢性心不全、肝不全(肝硬変)に対する運動・栄養管理がサルコペニアの発症を予防する可能性はあるが、一定の結論は得られていない。(エビデンスレベル:低、推奨レベル:弱)
第4章 サルコペニアの治療
CQ1 運動療法はサルコペニアの治療法として有効か?
【ステートメント】 サルコペニアを有する人への運動介入は、四肢骨格筋量、膝伸展筋力、通常歩行 速度、最大歩行速度の改善効果あり、推奨される。(エビデンスレベル:非常に低、推奨レベル: 弱)
CQ2 栄養療法はサルコペニアの治療法として有効か?
【ステートメント】 サルコペニアを有する人への必須アミノ酸を中心とする栄養介入は、膝伸展筋力の改善効果があり、推奨される。しかしながら、長期的アウトカム改善効果は明らかではない。(エビデンスレ ベル:非常に低、推奨レベル:弱)
CQ3 薬物療法はサルコペニアの治療法として有効か?
【ステートメント】 サルコペニアを有する人への SARM (selective androgen receptor modulator) を含む薬剤は、サルコペニアの改善に一部有効であるが、現時点で承認された薬剤はない。(エビデンス レベル:非常に低、推奨レベル:弱)
CQ4 複数の治療法の組み合わせはサルコペニアの治療法として有効か?
【ステートメント】 サルコペニアを有する人へのレジスタンストレーニングを含む包括的運動介入と栄養療 法による介入は、単独介入に比べサルコペニアの改善に有効であり、推奨される。しかしながら、長期的アウトカム改善効果は明らかではない。(エビデンスレベル:非常に低、推奨レベル:弱)
CQ5 二次性サルコペニアに対する介入は原疾患に有効か?
【ステートメント】
- 乳がんと前立腺がん患者では運動が骨格筋量、身体機能の改善に有効である。(エビデンスレベル:非常に低、推奨レベル:弱)
- COPD 患者ではアミノ酸補充が身体機能の改善に有効である。(エビデンスレベル:非常に低、推奨レベル:弱)
- CKD 患者では運動により身体機能の改善が期待できる。(エビデンスレベル:非常に低、推奨レベル:弱)
- 慢性心不全患者では運動やテストステロン補充により身体機能の改善が期待できる。(エビデンスレベル:非常に低、推奨レベル:弱)
- 骨粗鬆症患者ではテストステロン補充による骨格筋量の増加が期待できる。(エビデンスレベル:非常に低、推奨レベル:弱)